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現在も続いているイラク戦争。
 バグダッドでは今日もテロによりたくさんの爆弾が仕掛けられ、たくさんのアメリカ兵やイラクの民間人が死んでいます。

 そんな中、日々爆弾を処理する、爆発物処理部隊の物語。

ハート・ロッカー

 戦争映画には、必ず敵がいて、その敵は共産国人であったりベトナム人であったり宇宙人であったりロボットであったりするわけですが、この映画の敵は、爆弾です。

 そもそもイラク戦争自体が、なんのための戦争かわかってないのですが、この、動きもしない爆弾との戦いは、非常に地味です。

 防護服を着込み、爆弾に近づき、起爆装置のコードを切る(交渉人と一緒だ!)
 しかし、リモコン式の爆弾は、まわりに起爆装置を持った人間がいて、爆発物処理を行う人間を亡き者にするため、処理中に爆破スイッチを押そうとする。
 チームメンバーは、銃を構え、起爆装置を持った人間を射殺しようと目をこらす。

 なんの感情もなく、ただ爆発を待つだけの爆弾を中心に、様々な殺意が渦巻くその光景の緊張感。
 生きているうちに、絶対出くわしたくない状況です。


 この映画を撮ったのは、キャスリン・ビグローという女性監督。
 現在、この映画とアカデミー賞を争っている、「アバター」の監督、ジェームス・キャメロンの2番目の妻です。(ちなみに、現在の(4番目の)妻はタイタニックに出てた女優)

 アバターと、このハート・ロッカーを見比べると、そのあんまりにもあんまりな、掘り下げ方の違いを感じます。

 アバターには、明確な「悪」が存在します。
 惑星パンドラにある鉱物資源を求めて、侵略する事を決めた企業。そして、その企業の代表である軍人と社員。

 映画の中で彼らは明確な悪であり、青い宇宙人が彼らをやっつければ、全ては丸く収まることがわかっています。

 これに対し、ハート・ロッカーでは「悪」の存在がわかりません。
 テロリストの姿はほぼ描かれることはなく、「人間爆弾」も誰が作っているかわかりません。爆弾は、何も語ることがなく、解体されたり、爆発したりします。

 バグダッドで続く、「死」の連鎖は、いったいどうすれば終わるのか見当もつきません。
 ただ、凄惨な死が描かれ、それに対して主人公たちは深い怒りと悲しみに包まれます。 近くにあり、日常でもある死が、この上なく重く描かれているのです。

 これに対し、アバターでの「死」は比較的軽いです。
 地球人は、マシンガンでバンバン青い宇宙人をぶっ殺し、青い宇宙人も弓矢でヘリコプターを撃ち落としまくります。
 死をおそれずに突っ込んでいく宇宙人とヘリコプター。勇猛果敢というか軽いというか。

 映画を観に来る人の多くは、非日常を味わいにくるのでしょう。
 日頃抱えているややこしい問題や、嫌な現実から離れるための空間。

 何をすれば自分は幸せになれるかなんて全然わからない現実から、誰が悪いのかハッキリとわかり、そいつを倒すために仲間たちが協力してくれる世界へ。

 新しいことをやりたくても、現状の既得権を失うリスク、自分が傷つくリスクを恐れてなかなか踏み出せない現実から、死をもおそれず目的に向かって突っ込んでいく世界へ。

 アバターの3Dグラフィックのなかで繰り広げられる世界は、多くの人が映画に求めている世界そのものなのかもしれません。

 そして、その対極にある、ハート・ロッカー。
 我々が、最も行きたくない現実の世界。
 そこには、今も数万人のアメリカ兵が送り込まれているのです。
 そして、数百万人のイラク人が生活しているのです。

 アメリカ兵たちは、絶望することなく、淡々と任務をこなします。
 イラク人たちは、日常の生活を淡々と営んでいます。

 悲惨な非日常と、淡々とした日常が同居する世界が、この映画の中では描かれています。

 つかの間の現実逃避も映画の重要な役割ですが、現実を直視し、自分の人生のシミュレーションとするのも映画の役割。

 命の重さと軽さを同時に突きつけられ、「おまえだったらどうする?」と聞かれるのがすごく怖くなる映画。
 
 主人公は、こんなことを言います。
 
年を取ると、だんだんと大好きなモノがなくなっていく。
 おもちゃはただのブリキやぬいぐるみだと気付いてしまう。

 そして、この年になると、大切なモノはひとつだけになるんだ。

 そのひとつだけの大切なモノについて、じっくり考えるきっかけに。
 ハート・ロッカー、お勧めです。

【追記】
 アカデミー賞作品賞取りました。
 アバターとの対決でしたが、コチラに。
 やはり、今、この世界的な不況という時代に、

「悪い金持ちをやっつければ、みんなが幸せになれる素敵な世界がやってくる!」的な、ファンタージーではなく、

「誰が敵だかもわからない。目の前には処理しきれないほどの無数の問題がある。それをひとつひとつ命がけで処理していかなければ前には進めない世界なんだ」というリアルな現実を見るべきなんだと思います。
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